B型肝炎の治療
B型肝炎の治療を考えるとき、C型肝炎の治療と比較すると、その複雑さ、難しさがわかります。B型肝炎の場合は、臨床像が複雑です。C型肝炎とは違って比較的安定していたウイルス保持者(キャリア)がいきなり重症化したり、若年者に肝癌の発生(C型肝炎では若年者の肝癌の発生は極めて稀です)がみられたりするからです。一言でいって、B型肝炎の治療はまさに肝疾患専門医療機関の力量が要求される領域です。
C型肝炎の治療の目的は「ウイルスを駆除すること」、そして「肝癌の発生を抑える」ことと極めて明確です。ところがB型肝炎の場合は、治療によりウイルスを抑えることはできますが、ウイルスを駆除することはほぼ不可能です。ウイルス量を抑えるその最終目的は「ウイルスの活動性を沈静化させ、肝硬変や肝癌への進展を抑える治療」になります。言いかえれば、B型肝炎の治療の目標は活動性のB型肝炎を非活動的な状態にすることです。
具体的には、肝機能とウイルスマーカーの改善と、肝硬変、肝癌の阻止ということになります。B型肝炎はHBe抗原陽性の場合多くは活動性であることから、従来はHBe抗原からHBe抗体への転化=セロコンバージョン、もしくは、HBe抗体陽性にならなくても、HBe抗原が陰性化すること=セロネガティブのいずれかを達成することが治療の目標でした。
ただ、セロコンバージョンまたはセロネガティブを達成しても肝炎の活動性が維持し、肝硬変、肝癌へ進展することがあることから、現在では日本のみならず世界的にもHBs抗原の消失が治療の目標になってきました。
そのことが肝硬変、ひいては肝癌への進展を抑えることがわかってきたからです。2017年8月に改訂された日本肝臓学会B型肝炎治療ガイドラインにもそのことが明記されています。
しかし、治療を長期間継続し、肝硬変の発生を抑えても、肝癌の発生の抑制は簡単ではありません。
薬剤の選択はB型肝炎の場合、インターフェロンか核酸アナログ製剤であるエンテカビル(ETV)、テノホビル(TDF)、ベムリディ(TAF)などを第一に選択します。
治療効果の判定にはHBV DNA量(ウイルス量)の低下が重要な指標となります。HBV DNA量は同じく2017年日本肝臓学会のガイドラインで、log copies /mLからLog IU/mLへ転換されてきました。これからはLog IU/mLが使われます。従来の4.0log copies/mLは3.3Log IU/mLと同じです。
HBe抗原陽性でウイルス量が3.3Log IU/mL以下の場合にはB型肝炎は非活動的な状態と考えてよいでしょう。また、活動性のB型慢性肝炎から肝硬変への阻止することが重要であると述べましたが、治療にあたっては、患者様の年齢やウイルス量と肝生検組織による線維化の程度、すなわちstaging分類(F1~F4まで、F4が肝硬変)が大変重要です。
治療のスタートは、肝硬変の場合(黄疸、腹水のない代償性、それらがある非代償性とも)は、HBV DNA量に関係なく、治療をスタートしますが、慢性肝炎の場合、HBV DNA量が3.3Log IU/mL以上かつALT値 31IU/L以上での治療のスタートが推奨されています。ただ、HBV DNA量3.3Log IU/mL以上でALT値 31IU/L以下であっても、線維化がF1以上であれば、治療を考慮すべきです。
B型慢性肝炎の抗ウイルス療法の基本
- ペグインターフェロン
- 48週投与を基本とし、HBe抗原陽性、陰性にかかわらず、HBV DNA量が3.3Log IU/mL以上でALT値が31IU/L以上を呈する症例をその適応とします。
- 核酸アナログ製剤
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現在、Lamivudine(ラミブジン)(LAM)は耐性株出現頻度が高く、Adefovir(アデホビル)(ADV)は単独投与では耐性株と腎障害の点から第一選択の薬剤となりません。
効果と副作用の面から第一選択はEntecavir(エンテカビル)(ETV)またはTenofovir DF(テノホビル)(TDF)です。それに加えて、2017年4月にベムリディ(TAF)が保険適応されました。TAFはTDF(効果、薬理の上は同じ)で腎機能(腎機能への影響が少ない)や骨代謝(骨粗鬆症への進展が少ない)などの理由により、TDFがTAFに切り替えられているケースが増えています。
- 耐性株への対応
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ラミブジン耐性あるいは、LAM+ADV投与例はTDFまたはTAFに切り替えます。TDFまたはTAFで不十分ならETVを加えます。
エンテカビル耐性例は稀ですが、耐性株出現時は、TDFまたはTAFあるいはETV+TDFまたは TAFに切り替えます。
TDFは投与開始5年までは耐性株出現の報告はありませんが、もし耐性株が出現すればETVを加えます。
- 免疫抑制剤・化学療法により発症するB型肝炎対策
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HBV DNA量が低値・ALT値が正常であっても、免疫抑制剤や抗癌剤投与時には、HBV DNA量が上昇して重度の肝障害を来たすことがあるため注意が必要です。
HBs抗原が陰性でもHBc抗体またはHBs抗体陽性の方に免疫抑制剤や抗癌剤投与中、あるいは投与終了後にHBV DNAが上昇して重度の肝障害を来たすことがあるため、経時的にHBV DNA量を測定し、HBV DNAが陽性化した時には核酸アナログ製剤を早期に使用します。
Point
B型肝炎の病態は複雑で、急な増悪がみられることもあります。また、若年層に肝癌の発生がみられることがあります。治療については専門の医師による管理が重要です。当院は一般社団法人日本肝臓学会認定 肝臓指導医3名、同学会認定肝臓専門医1名が在籍しています。B型肝炎の治療について、ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
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