肝癌早期発見のための検査
B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変の診断を受けた方は、肝細胞癌の高危険群といえます。
その中でもB型肝硬変、C型肝硬変の患者様は、さらにリスクが高いグループです。
C型慢性肝炎においては線維化の段階(F1〜F4)に応じて肝癌の発生率も増えます。年間発生率は、F1においては0.5%、F2においては1〜2%、F3においては3〜5%、F4(肝硬変)においては7〜8%の発生率がみられます。線維化の段階は肝生検で確認します。
肝臓の線維化の進展と発癌率
Ⅰ.血液検査(腫瘍マーカー)
- 1.AFP (アルファフェトプロテイン)・AFP-L3%(アルファフェトプロテインエル3分画)
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AFPは胎児期にできる生理的蛋白ですが、出産後は低下し健常人では10 ng/ml以下です。しかし、肝癌や肝芽腫、ヨークサック腫瘍、胃癌の一部などでは腫瘍がAFPを産生するため高値になります。AFPは肝癌の全例で上昇するわけではなく、また肝癌を合併しない慢性肝炎や肝硬変でも上昇する例があり特異性(特徴づける)に乏しい腫瘍マーカーです。ただAFPが200 ng/ml以上のときは注意を要します。
AFPの中のAFP-L3%という分画が肝癌に特異性の高いマーカーとして現在用いられています。AFPの中のL1、L2、L3という成分のうちL3のパーセンテージが15%を超える場合には肝癌の発生を疑います。
- 2.PIVKA-Ⅱ(ピブカツー)
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PIVKA-Ⅱは肝臓で合成される血液凝固因子の一つであるプロトロンビンの合成過程において、ビタミンKの欠乏により生じる異常タンパクのことです。
肝癌でなぜPIVKA-Ⅱが上昇するのかは不明な点が多いですが、AFPより肝癌特異性の高い腫瘍マーカーです。正常値は40 mAU/ml以下です。特に100 mAU/mlを超えると注意が必要です。
ただし、肝癌以外でも、ビタミンK欠乏状態やワーファリンなどのビタミンK拮抗薬を投与している場合に上昇したり、肝癌でもビタミンK投与で見かけ上低い値を示すことがあるので注意が必要です。
Ⅱ.画像診断
画像診断には主として超音波(エコー)、CT(単純および造影)、MRI(単純および造影)、および血管造影(血管造影下のCTを含む)があります。近年、癌の画像診断としてPET(ペット)検査が注目されていますが、肝癌に対しては必ずしも有効ではありません。
1.超音波(エコー)
体表の探触子から3 MHZ〜4 MHZの周波数(人の耳で聞こえない)で発信された超音波(パルス)が、組織や臓器の境界面で反射し、エコーとして探触子で受信された画像です。
肝・胆・膵などの腹部の画像診断の中でも簡便かつ有用で、1cm以下の肝癌の検出(確定診断には他の画像診断、病理診断が必要)が可能です。難点は術者の技能により検出率に差が出ることです。また造影剤を用いた超音波検査では、血流の豊富な肝癌が鮮明に検出されます。
〈造影エコーの進歩〉
2007年から保険認可された超音波用の造影剤(ソナゾイド)は肝癌の診断に非常に有効です。
その原理は造影剤を静脈注射して、30秒から1分後の早期血管相における造影剤の染まり(濃染)と、10分後のKupffer相における造影剤の抜けの組み合わせで肝癌を診断するものです。当院の検討によっても、造影エコーにより、2cm以下の肝癌の80%が診断可能という結果が出ています。
造影エコー
①通常のエコーでは、白くぼんやりと結節が見られる。
②造影エコー(早期相)では、動脈血流が豊富な肝癌がはっきりと描出されている。
③RFA治療後の造影エコーでは、ラジオ波によって肝癌が壊死しているので、血流が見られない。
2.単純CT(Plain CT)
X線(レントゲン線)を使用して、身体の断面を撮影する検査です。X線は物質に吸収され、減弱します(弱くなる)。
この物質の吸収差を利用して、肝臓をはじめ膵臓・胆のう・脾臓など、多くの臓器の情報が得られます。物質のX線吸収が高いもの(代表的なものとして骨)は白く、低いもの(代表的なものとして空気)は黒くなります。ただ肝癌の診断においては単純CTでは2cm以下の検出は困難です。
3.造影CT(Contrast Enhancement CT: CECT)
造影剤という薬を使用して、単純CTだけではわかりにくい症例や、腫瘍などの検索や性状、治療後の効果などをみる場合に行う検査です。一般的に腕の静脈内に造影剤を注入しながら行います。造影剤のX線吸収は水より高いので、大きさが2cm以下であっても動脈血流の豊富な肝癌が写真上白く写ります。
症例1
①単純CT(上)では見えませんが、造影CT(下)では、2cm以下の腫瘍が1つ抽出されています。
症例2
②単純CT(上)でははっきりしませんが、造影CT(下)では、多発性の肝癌がはっきり抽出されています。
4.MRI
MRIとはmagnetic resonance imaging(磁気共鳴画像)の略で、“原子核が磁場の中で、特定の波長の電磁波エネルギーを共鳴吸収し、これを電磁波として放出する現象”を応用した画像診断です。比較的新しく開発され、1980年代以降日常臨床に用いられています。CT検査とは異なり放射線を用いることはないので、患者様の被爆がないというのが大きな特徴です。
脳外科、整形外科、婦人科領域の診断に有用です。また、肝臓をはじめとする腹部臓器の診断でも優れた診断能力を発揮します。肝癌の診断においてもT1強調像(T1WI)、T2強調像(T2WI)、プロトン強調像(PDWI)などの画像を総合して診断します。
2008年から保険認可されたMRIの新しい造影剤(EOB)を用いたEOB-MRIは肝癌診断にさらなる進歩をもたらしています。
その原理は造影剤を入れた30秒後の早期相における造影剤の染まり(濃染)と、20分後の肝細胞相における造影剤の抜け(Defect)の組み合わせにより、肝癌を診断するものです。
他施設や当院の検討によれば、2cm以下の肝癌の80%以上で診断が可能となりました。
造影MRI
早期相
後期相
造影剤を注射して、早期相では、まず動脈血流の豊富な肝癌が白く写ります。後期相では門脈血流を反映しますので門脈血流のない肝癌部分は黒く抜けて見えます。
5.CTA(肝動脈造影下CT)・CTAP(経動脈的門脈造影下CT)
CTA・CTAPは肝癌に対して検出能の高い検査の一つです。
治療法の選択や治療成績などを考える場合、早期発見におけるCTA・CTAPの役割は非常に重要になっています。
CTAは、通常、総肝動脈(肝臓の血管の一つ)にカテーテルを留置し、造影剤を注入しながら撮影するCT検査で、CTAPは、上腸間膜動脈(腸管にいく血管の一つ)から造影剤を注入し、造影剤が門脈から肝臓に流入する時間にあわせて撮影するCT検査です。
正常の肝臓は「動脈」と「門脈」という2種類の血流で支配されています。通常、肝臓は20〜30%が動脈、残りの70〜80%は門脈の血流が優位です。CTAでは動脈の、CTAPでは門脈の血流動態がわかります。
典型的肝癌はほぼ100%肝動脈に支配されていることから、CTAで肝実質よりよく染まり(画面では白く写り)、CTAPでは造影剤がほとんど入らず、画面上黒く写ることになります。このことを利用して、CT画像上で肝実質と腫瘍との鑑別が可能となり、腫瘍の有無とおおまかな性状を知ることができます。
実際に典型的な肝癌の症例をCTA(動脈造影)・CTAP(門脈造影)の画像で説明します。
まず、 CTA(①②)では、動脈優位の撮影です。肝動脈を主要血管としている腫瘍部(◯)が造影剤でよく染まっている(白くなっている)のがわかります。肝実質はわずかに染まっています。
次に、CTAP(③④)ですが、門脈優位での撮影なので肝実質がよく染まり(白くなり)、腫瘍部(◯)には造影剤が入っていないために、黒く抜けた写真になっています。
このように、腫瘍とその周りの肝実質を比較することで、肝臓内の腫瘍が検出できます。
CTA・CTAPは画像診断上、腫瘍部の検出能力の高い検査ですが、すべての腫瘍を検出できるわけではありません。他の検査(MRI・超音波など)と組み合わせ、血液データ、患者様の背景などを考慮したうえで、最終的に放射線科医により診断されます。
CTA・CTAPは腹部血管造影検査に併用して行いますので、一般のCT検査と違い入院が必要となります。
肝臓の部屋
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